千の旋律、千の悲哀、千の記憶Dear Loneliness Leave Me Alone

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Radical Face 『Ghost』(2007/MorrMusic) 13:09


やさしき追憶の幻像よ! 名もなきあえかなる存在よ! 失われし愛しきものすべて
の面影をまとって、この胸を振るわせる。――消えさった懐かしきものの亡霊よ・・
・・わたしが来るのを待ちわびる切なげな目――忘却に抗おうと訴えるかすかな
声――埋もれた手で触れられたしびれるような感触・・・・。(小泉八雲 『幽霊』
より)



 アメリカ合衆国東南端に位置するフロリダ州の商業都市、ジャクソンヴィルに拠を置く若者が、”Radical Face”という名義で「正式」にリリースする初めてのアルバムは、その名と存在を世界に轟かせる端緒となるだろう。後年のち回顧した際に。その男の名はBen Cooper。まだ四半世紀も生きてはいない。音楽家としてのキャリアもまだ始まったばかり。だが、憶えておくにこしたことはない。様々な名義を駆使して活動を行う彼の動向を気にかけておいて損はない。そして彼が世に送り出す楽曲に、耳を傾ける時間を割いてもらいたい。そこには音楽を通して様々なものが見えてくるだろうから。


 あるいは、Radical Faceという名義は知らずとも、Electric Presidentという名前ならばアンテナに引っかかる人も中には多いかもしれない。昨年、Morr Musicからデビューを果たした二人組ユニットであり、その片割れこそがBen Cooperだ(相棒はAlex Kane)。グリッチノイズの中から立ちのぼるメランコリックなメロディと鼻歌のごとき軽やかさを醸す歌声に魅了された人に、僕は伝えたい。エレクトロニカサイドのアウトプットがElectric Presidentとすれば、Radical FaceこそはBenにとっての真の姿をさらけ出すものだ。あくまでも共同作業の前者とは違い、発想とコンセプトメイキングとソングライティングとセルフプロデュースの全てを己で責任を負うRadical Faceでの活動は、完璧主義者の彼による理想の姿の具現化となっているのだろう。


 そんなBenがRadical Faceとしての活動をスタートさせたのは、今から数年ほどの時間を遡行する。その時の名義は「Radical Face vs. Phalex Sledgehammer」というものだっ
た。これまで1枚のアルバム(『The Junkyard Chandelier』)と2枚のEP(「Robbing The Grave」「Random Songs」)を自主制作で発表しているが、ここでは紙幅の都合からそれらの音源に関して言及することは断念する。今では入手すら不可能なマテリアルである為だが、またの機会に紹介できるようになればいいなと含みを持たせておきたい。
 Ben CooperことRadical Faceが、満を持して今春リリースする『Ghost』(Morr Music)は、一貫したコンセプトのもと制作されたアルバムだ。それはタイトルが全てを現している。つまりは、幽霊。プレスリリースから抜粋すれば、以下のような、幾つかの「if も
しも・・・」の発想から生まれたものだ。


「もしも、家が記憶をもっていたら?」
「もしも、想い出が自分の家の壁にしみ込んで、その家の一部になったら?」
「もしも、過去に自分の家に住んでいた全ての人たちが、ゴーストとなってその家に
出没したら?」



 何人もの住人をそこに住まわせた、(おそらくは)築何十年と経過しているであろう古びた家。そこにまつわる人間が有した記憶と家そのものが持っている記憶。家族の団欒の風景であったかもしれない。ただひたすら孤独の景色もあっただろう。もしかしたら、床や壁に血の飛沫が飛び散るような悲劇も起こったかもしれない。家屋の梁に太いロープがかけられ、その住人の全体重を全てひきうけ大きな軋みを立てたことも・・・。ここに収められた11の楽曲と10の物語は、それらの光景を事細やかに切り取った短編小説として成立している。自らの公式サイトに、ちょっとしたショートストーリーを執筆しているBenらしく、書き下ろしたリリックも極めて映像喚起力の高い物語性と寓意性を有しているのだ。


 アルバムの幕開けとなるのはインスト”Asleep On A Train”。遠雷のように遠くからピアノの音が聴こえ、やがてオルガンの音色が鳴り響く。タイトルにもあるように、このアルバムは列車でのうたた寝からはじまる。疲れて寝てしまうくらいの長距離の移動、束の間の夢見のあとの到着。その目的地となるのは、そう「家」だ。僕たちは、長い旅路を経て、帰ってきた。

 続くM2“Welcome Home”は、吹き抜ける強い風がウインドチャイムを鳴らすフィールドレコーディングから始まるイントロが非常に印象的であり、象徴的でもある。このアルバムでは、要所でこのように録音された生の素材が効果的に導入部として使われている。各物語にいざなう合図のように、耳を傾けている僕たちは彼の作ったこの世界に導かれていく。そしてこの曲では、家が語りだす。”おかえりなさい!” アコースティックギターのストローク。車輪が転がるように軽やかなリズム。この軽快なトラックが、悪戯好きの幽霊たちが奏でるラップ音のように僕には聞こえるのだ。そこに乗るベンの歌声は、サビパートの伸びやかなメロディと歌唱法が少しSmashing Pumpkinsを想起させる(「1979」のような感じ)。

 メランコリックなローズピアノの音色に子供たちがボール遊びに興じる嬌声(子供の
霊なのかもしれない)が聴こえ、バンジョーの朴訥な音階にチェロとヴァイオリンの幽玄な音色が絡むM3.”Let The River In”は序盤のハイライトだ。編曲と配置やチャンネルの振り分けが計算され尽くした音塊が「家」という空間を形成しているかのよう。そして、そこに住み着いた幽霊に対して優しく呟く「僕」の唄。ベンの声はこの手の唱法でこそ輝く。だろう? 子守唄のごとく囁くように歌われた最後に奏でられる泣きメロの美しさが白眉すぎる(そして直後のストリングスと)。

 隊列が行進する音に口笛が聞こえたのち、キーボードのセンチメンタルな旋律が極め
て印象的なM4.”Glory”は、マーチング風リズムトラックが耳に心地よい。重々しく始まった流れから全身を解き放ってくれるような。少々どころか大いにホラーめいたリリックは、示唆的であり不吉な表現に覆い尽くされている。屋根裏に住み着いている幽霊の視点から描かれ、「彼」が述懐するスタイルだ。そして、最後の最後にドラムは荒々しく変化を遂げ、ギターの音色はひしゃげて歪み、全てを浄化するノイズとなる。それは、” I'll find out what broke me soon enough.”という締めのリリックに呼応していると思ってしまう。

 M5.”The Strangest Things”は、その昔Radical Faceがまだ「Radical Face vs. Phalex Sledgehammer」と名乗っていた頃に発表したEP「Robbing The Grave」に収録されていた楽曲の再録。EPでは6分を超えるインストナンバーであったが、今作ではリリックが書き下ろされ、全く新しいものとして生まれ変わった。「僕の頭の中の幽霊は決して眠らない」。そんな呟きから始まる、一人の男の苦悩と葛藤と、その当事者であるところの幽霊との戦いの決意表明。

 終始、古い扉の開閉音が聞こえるM7.”Along The Road”は、Benのピアノによる弾き語りを中心に、メランコリックなナンバーに仕上がっている。ここでの幽霊は、みんなが寝静まったあとに歌会を開いているようなユーモアあふれる連中だ。

 不安感をかきたてるギターのストロークとともに疾走感溢れるリズムに、Benがライムするように歌いまくしたてるM8.”Winter Is Coming”は、どう解読していいのかわからない難解なリリックを抜きにしても、アルバム終盤にドラマティックさを演出する佳曲となっている。

 そして、ラストを飾るM11.”Homesick”は、ここに至るまでの凝ったアレンジとは打って変わって、非常にシンプルなギターとトイピアノによる調べに、食器が重なるようなラップ音が被さる。朴訥でフォーキーな弾き語りでこのアルバムは幕を閉じる。”いま、僕たちは幽霊になってしまったんだ。そして冬が来るのを祈っているんだ”というフレーズで。


 以上、駆け足でアルバムの概要をフックアップしてみたのだけれど、あらためて、Ben Cooperがたった一人でこの作品を作り上げたことに畏敬の念を抱いてしまう。眼前に大西洋を望む住環境で暮らし、自宅に構えるスタジオで生まれた楽曲の数々(その自宅こそ、今作の中で中心に置かれた「家」にあたるのだろう)。卓抜した作曲・編曲能力といった音楽的才能だけでなく、発想の着眼点からしてユニークさを伴っている。思わず「Sufjan Stevens以降」というフレーズを使いたくもなろうもの。現在25歳という彼の年齢において同じ世代のミュージシャンを見渡してみても、あらゆるジャンルを養分とし、器用に様々な顔を使いわけながら、ここまで完成度の高いものを作り上げることができる逸材がいるだろうか。幻のファーストアルバム、EP2枚、それ以外にもサイドプロジェクトでのアルバム、これらの一刻も早い再発を願ってやまない。ここから、始まる。予感ではなく確信している。そんな人間は僕だけじゃなく、このアルバムを耳にした全ての人
に芽生えているはずだ。


 最後に、このアルバムの根幹を成す「幽霊」という概念の捉え方に関して。日本と欧米では感じ方が正反対と言っていいくらい違うものである。パブリックイメージとしても、日本の幽霊は足がなくおどろおどろしくて、西欧は足があって何かと騒がしい、みたいな(極めて古典的だけれど)。たとえば日本に生きている僕たちは、ひとたび幽霊譚というものを想起するならば、「ヒュードロドロ」という効果音とともに現れた人物が恨みやつらみを述懐してみせるというものだったりする。だけどこのアルバムには、扱われたテーマとは裏腹に、いかにも混在していそうな「恐怖」という感覚がどこにも内包されていない。リリック内での言及が多少はあったとしても、こと音楽面においてそれは皆無だ。恐怖は切り離され、極めてファンタジックに彩られている。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『夢魔の感触』の中で「幽霊を信じるのも幽霊が恐ろしいのも、その発端は夢にある」と述べているように、どこか夢の世界と接続されていると感じてしまう。そういえば、ギリシア神話においては、眠りの神ヒュプノスと死の神タナトスは兄弟とされていたのだっけ。幽霊になるためには死ななくてはならない。死なぬ者は幽霊にはなることはできない。さらに八雲は、「このように強烈でありながらもおぼろげな感情は、たいてい個人を超越したものであり、遺伝によって受け継がれた、つまり、死者の経験によってわれわれのなかに形成されたものといえよう」(同上)とも表記しているが、それらの媒介となる役目を果たすのが、Ben Cooperが作り上げた世界の中では「家」ということになるのだろう。だから、今作においては係累も登場し、重要な役割を果たすわけだ。M6.より”
I saw your father in the hall; his ghost is living in the wall (君のお父さんをホールで見かけたよ。彼は壁に住みついているゴーストなんだ)”というラインしかり。そして、全てが夢へと通じているのならば、1曲目のタイトルが鍵を握っているとも言えるやしないか。”列車の中での睡眠”。これは偶然なのだろうか。まどろむように終わりゆく最終曲も、”Sleepwalker”という名が冠され、リリックの中にも眠りに対する言及がなされているその前曲も、頻繁に夢を示唆するような事柄が頻出しているのだ。って、こんな下衆の勘繰りも全てはただの妄想でしかないね。今はただこの素晴らしいアルバムの世界に没入していよう。多作な彼のこと、すぐにでも新作が届けられるとは思うけど。


「記憶」よ、こちらへ来て
 きみのたのしい調べを奏でよ
すると、風に乗って
 君の音楽が流れ出る (ウィリアム・ブレイク 「うた」より)


Track Listing:

01. Asleep On A Train
02. Welcome Home
03. Let The River In
04. Glory
05. The Strangest Things
06. Wrapped in Piano Strings
07. Along The Road
08. Haunted
09. Winter Is Coming
10. Sleepwalking
11. Homesick
| disc review | comments(0) | - | posted by 一本道ノボル
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